乱立するマーケットプレイス

当社の設立は2014年。来たる2019年のラグビーワールドカップ日本大会に、多くの欧米オセアニアの外国人観光客が来日する時に備え、京都で日本文化を体験するプログラム提供を始めたのがきっかけでした(そのプログラムは志半ばで2017年に事業譲渡し、今は別の事業者が継続運営しています)。当時は年間の訪日外国人数が1,341万人、10年間で2倍になった年であり、起業のテーマもインバウンドに関連したものが多かったように思います。その中でも、旅行商品のマーケットプレイスは多数見られました。メジャーなところだとTwitter創業者のジャック・ドーシー氏が投資する「Peak」、リクルートの「じゃらん」や「airbnb」も体験プログラムを扱い始めました。国内のスタートアップ系でいくとボヤジンやアソビュー、LIGが始めた「TRIP」というサービスもありました。私たちのプログラムも、とても多くの事業者さんから、毎月のようにお声かけいただきました。

 

素材はある、コンテンツが無い

個人客(FIT)向けのコンテンツ提供者だった私たちは、いくつかのマーケットプレイス(オンライン・トラベルエージェント、略してOTAと呼ぶことが多いそうです)に掲載させていただいたのですが、期待していたほどには売れ(集客ができ)ませんでした。いくつか要因が考えられますが、そのうちのひとつは、「そもそも出品数が少ない」というものだと思います。多く出品されていて、レビューによる比較検討ができて、中には飛び抜けて面白い商品がある。そういったマーケットプレイスにたくさんのユーザーが集まり、成約(コンバージョン)していくのだと思いますが、ユーザーの期待通りに商品が並んでいない。創業当時はそのような構図だったと思いますし、インバウンドが2,869万人になった今も、それは大して変わっていないのではないかと思います。

 

経済性以外のメリット

買いたい人(エンドユーザーと海外のアウトバウンド事業者)も、売りたい人(マーケットプレイス運営者や、国内のインバウンド事業者)もいるのに、コンテンツ提供が追いついていない。そのような状況を打開すべく、いろんな施策が実行されていますが、コンテンツ提供者の量と質を高めていく際に気をつけなければならないのは、経済的メリットの訴求(儲かりまっせ)だけでは長続きしないということです。FIT化が進む現代において、高い満足度を得られるコンテンツとは、最終的には人と人との出会いに行きつくような、とてもパーソナルなものになってきます。そうすると必然的に数をこなすのが難しくなり、経済的なメリットを享受できる見込みは高くありません(例外は京都の茶道体験などですが、これはまた別途書きたいと思います)。経済的なメリットを得るのであれば、コンテンツを提供する事業者の本業への広告的効果(例:日本文化体験プログラムを持つ宿泊施設)を期待するか、満足度から逆算した高い単価を設定し、コンテンツ単体でしっかりと稼ぐなど、工夫が必要です。コンテンツの経済性については、別途書きたいと思います。

では、経済以外のメリットとはどんなものがあるでしょうか。僕が一番本質的だなと思うのは、自らの地域の有りようや、自分が歩んできた文化の道を、旅行者の視点からあらためて「見直す機会」にすることです。その観点から、2015年に飛騨古川を訪れて見せていただいた「SATOYAMA EXPERIENCE」創業者の山田拓さんの取り組みは特筆すべきで、僕は大きな影響を受けています。彼の話は、著書である「外国人が熱狂するクールな田舎の作り方」にまとめられています。山田さんといえば、僕は山田桂一郎さんの本「観光立国の正体」にも大きな影響を受けました。

 

スーパーマンを待たなくても

コンテンツ提供者の量と質を高めていくために、大切だなと思っているのが、「スーパーマン」の登場を期待しないことです。旅行者が求めるコンテンツを持っていて、それを適正な価格で商品化し、インターネットでうまく広報し、旅行関係者に営業し、集客し、実際に受け入れて、高い満足を得て、費用を受け取り、その模様をまたSNSで発信し、次の集客に備える。英語は必須で、多言語ができたらなお良し。安定したコンテンツ提供をするために、何人かスタッフを募集し、採用し、教育し、マネジメントまでする。多くの地域で、それらすべてを、自身がリスクをとってやってくれるスーパーマン(多能工?)の登場を待っているというのが現状ではないでしょうか。”いや、事業とはそういうものでしょ”という意見もあると思いますが、それはじゅうぶんに広い裾野があってのこと。現に京都には、そのような事業者は多数存在しておりますが、それは国際的観光都市ならではの特殊事情(すでに域内に多くの旅行者がいるために可能なこと)からだと思います。京都や東京など、事業者の裾野が広い地域はそれでいいと思いますが、それ以外の地域では、前述したプロセスを、得意技を持った事業者で分担していくアプローチが有効なのではないかと考えています。まるでラグビーのチームのように。

 

 

2017年10月28日、福岡のレベルファイブスタジアムで観戦した日本代表vs世界選抜(World XV)戦。ラグビーは、とても示唆に富んだ、多様性のあるスポーツです。「NO SIDE」という言葉は日本発祥なのだとか。敵も味方も、西も東もない。