差別化と同質化
リクルートで人材採用の戦略を提案していた時、年頭に置いていたことがあります。「差別化と同質化」。最近こそ「副業」というオプションが普及しつつありますが、それも「主業」あってのこと、人の体が1つである以上、就職にあたってはひとつの職場しか選べない場合がほとんどだと思います。なので、求められるのは「他の会社ではなく、その会社を選ぶ必然性」をどう設定するか、つまり「いかに差別化するか」ということであり、多くの採用マーケティング戦略/戦術が、ここにフォーカスされています。ただ、差別化だけをやればいいかというと、そうではありません。求職者は多くの場合、他の企業と相対的に比較をした上で意思決定をするので、「他と遜色ないよ」ということをどう認識してもらうか、つまり採用競合と「いかに同質化するか」ということも、同時に検討しておく必要があります。現在は売り手市場なので、膨大な量の求人情報の中から、まずは他社と圧倒的に差別化して自社を見つけてもらうことが必要ですが、採用コミュニケーション(発見→興味→理解→共感→覚悟)が進む中で、どこかで採用競合を特定し、そこと同質化をしておく必要があります(その先には現実の職場環境へのソフトランディングも図る必要があります)。モチベーションの構成要素に当てはめれば、差別化は動機付け要因、同質化は衛生要因になるでしょうか。
観光マーケティングの傾向
観光マーケティングにおいては、同質化に重きを置かれているケースが多いように思います。「京都と同じように伝統文化が味わえますよ」といった特定エリア/スポットとの同質化や、「他の観光地と同じようにいろんな楽しみ方(グルメや温泉、体験プログラムなど)がありますよ」といった広く他の観光地との同質化もあります。明確な差別化なしに、目的地として認識されることはないと思われますが、その戦略がないままに観光マーケティングに投資されているケースが多いのではないでしょうか(もちろん目的地としてではなく、立寄り地としてスタートするという戦略もあると思いますが)。
さらに、観光の場合は、特に外国人に対してはクオリティを表現することが難しいように思います。「ミシュラン」や「世界遺産」などの、”お墨付き”が無い場合には、着地側で信頼できる人の「すごい良かったよ、オススメ!」という言葉をいかに広げるか、その準備が必要になると思われます。
差別化ポイントは変化していく
差別化にはターゲットの設定が必要不可欠です。ターゲットがいてこそ、同じ視界に入っている競合、そこと差別化(同質化)すべきポイントが明らかになり、具体的な打ち手になっていきます。ターゲットが接するメディアも日々変化していますので、視界を絶えずアップデートしておく必要があると思います。以前は、「フォトジェニックな風景」で人が呼べましたが、フォトジェニックな写真や動画が溢れた現在、それだけではもう差別化には十分ではない時代にさしかかっていると感じます。
採用と観光
採用と観光は、もちろん全く違う領域ですが「一度に違うものを選べない」などの共通項があり、採用マーケティングの観点から観光マーケティングを眺めると、いろいろ思うところがあります。その視点を大切にしながら、様々な気づきを言語化していきたいと考えています。
瀬戸内海の最高峰は、小豆島の「星ヶ城」です。ここで朝ごはん食べたいなと、いつも思います。