事例と事実にもとづいた、刺激的なお話

リクルートの先輩である檜垣さんからお薦めいただいた本「観光立国の正体」には、刺激的なコピーが並んでいました。「地元の”ボスゾンビ”を一掃せよ」「”おもてなし”を押しつけるな」「自社の利益しか考えない観光業界」・・・。きっと書店で手に取らせるため、編集者の意向でそうしているんだろうと思っていましたが、著者である山田桂一郎さんのお話は、それらのコピーはむしろ抑制的であったことがわかる、とても刺激的なものでした。予定されていた2時間があっという間。そこから延長して10分。その上で、僕と隣に座られた小林さんが「アンコール!」と(心の中で)唱えるほど、濃い内容でした。講演内容はたくさんの事例と事実に基づいており、ここに書けないことばかり。

 

「観光を通じた地域振興」の実際

講演のタイトルは「選ばれ続ける地域とは〜地域の自立と持続のために〜」であり、テーマは「地域振興」であって「観光振興」ではありません。冒頭、山田さんは「観光地を作らないでほしい、魅力的な地域をつくってほしい、そうしたら観光客は来るから」とおっしゃっていました。また「地産地消ではなく、地消→地産の順番で考えるべき、まず地域で経済を回さないともたないから」とも。”観光は外貨を稼ぐ手段であり、良いことである”という、僕からすると当たり前として置いていた前提が、それだけでは足りないのだと、認識を改めました。外貨を獲得したことが、逆に地域の衰退化を早めた事例は超有名な地域も含めてたくさんあるらしく、そのお話もとても刺激的でした(書けないけど)。

 

外貨を循環させるために

ポイントは、観光は地域振興の手段となり得るが、稼いだ外貨を地域で循環させるかどうか、ということです。外貨を稼いだ事業者が、地域に循環させずに域外のものを買うと、そのお金は地域を素通りしたにすぎない。そのため、KPIとしては「訪れた人数」ではなく、「域内調達率」や「経済波及効果」をモニタリングしなければ、観光を通じた地域振興にはつながらない(「旅行者」はただの人だが、「観光客」は顧客である)。例と出されていた京都市の数字は、「観光入れ込み数」が「地域の総生産」に繋がっていないことを示しており、サービス業がけん引役となって雇用は増えたが、人口はむしろ減っている事実を知り、驚きました。

地域内の異業種が連携して、産業を支え合い、雇用を維持し、税収を維持する。一見保護主義ではないかと思えるそのスタンスは、地域が団結しなければ実現しませんが、深刻な危機感を抱いていないところでは団結するインセンティブが働かない。そのまま、国からの交付金ありきの赤字の地域経営が続いていく。。。

 

観光で地域は救えない

「観光で地域は救えない」とおっしゃっていたのも印象的でした。地域の観光業で儲けられるのは、施設を持っている事業者(交通、宿泊、飲食、物販)ですが、観光事業者単体で地域を救えるくらいの力を持てる例は皆無に近い。であれば、自社の利益だけを考えるのではなく、地域のビジョンをみんなで考え、いかに経済を回すかを考え、総力戦として取り組む必要がある、と。

一方で、「すべての地域を振興する」ことが幻想であることにも触れておられ、実際に地域の「終活」を手がけることもあるそうです。少し寂しく感じますが、それもまた現実であると思いました。

 

地域活性の五段階

まとめとして、「地域活性の五段階」を紹介されておられました。講演では各段階にいる観光地の例を挙げておられましたが、生々しいので省略します。

まずは「①知名度・話題性アップ」。マスコミで紹介され、イメージが良くなり、有力者や政治家が喜ぶ段階。

「②客数の増加」は、いわゆる入込客数が増え、イベント屋やコンビニ、輸送機関が儲かる段階。

「③売上の増加」は、滞在時間が増え、宿泊者が増えて、客単価が上がり、地元業者が儲かる段階。

「④所得の増加」は、売上が原材料費や人件費に回ることで地域内に落ち、住民が儲かる段階。

そして最後の「⑤地域内経済の循環拡大」は、住民が儲けを貯金せずに地域内で使うことで隅々に儲けが波及する段階。最後の段階を目指さなければ意味がないとおっしゃっていました。

 

「NATOは不要」

総数3,570枚のスライドは、年間180泊し、280フライトして世界を飛び回る山田さんが、具体的な事象と抽象的な思考とを行ったり来たりしながら産み出された、知的生産活動の賜物だと感じました。最後に言われた言葉「NATOは不要」が、印象に残ります。「Not Action Talk Only」な人は要らないと。肝に命じます。

 

最後に、この講演会を企画していただいた大津商工会議所の方々、お声をかけていただいた檜垣さんに感謝します。もう一度「観光立国の正体」を読んだら、また違った気づきがありそう。ありがとうございました!