かねてからお話を伺ってみたかった安西洋之さんのセミナーを、COS KYOTOさんが京都で開催されるとお聞きしたので、参加してきました。「意味」というキーワードが、ここ最近ずっと心の中にあります。以下は備忘録です。

 

意味を問うデザイン、イタリアの経営思想とは

付加価値の高い、ラグジュアリーなモノやコトの開発を志向するときに参考になるのは、「機能」で語るか、「嗜好」で語るか。前者の代表的な国はドイツであり、スイス。後者はフランスであり、イタリア。フランス企業の、ラグジュアリーブランドを構築する取り組みは、LVMHなどを事例に語られることが多いが、それらは長い時間をかけて、また国などの関与が要素として大きく、じゃあ日本ですぐ参考にしようとはなりにくい。その点、イタリア企業のそれは、アルマーニやブルネロクチネリなど短い時間で構築された事例があり、示唆に富む。

 

イタリア企業の存在感の源泉は

「Made in Italy」は、Amazon唯一の国単位で区別されたカテゴリであり、Googleにおいても高い検索率をずっと維持している。特に、”3F”(Fashion/Food/Furniture)領域において、イタリア企業の存在感は際立っている。その源泉には3つの特徴がある。

 

①意味のイノベーション

イタリア企業は、モノやコトに「意味」を与えることに長けている。例えばモレスキン(MOLESKINE)は、ノートであるが、ノート売り場ではなく書籍売り場における陳列などを通じて、人間のクリエイティビティに訴えかける存在という「意味」をモノに与え、ハイブランドとなっている。

②アルティジャナーレ(職人的)

日本でいうところの「職人技」は、ひとつひとつ手仕事で作り上げていくイメージがある。ここでいうアルティジャナーレはそれとは少し違い、少量生産と大量生産の間を、カスタマイゼーションとパーソナライズで実現する「中規模量産」を志向することを指している。地球規模でスケールする商品でない一方で、職人の数にキャパが制限されるわけでもない。ただそこで作られるモノは、この現代に保有する意味を持つ。

③ローカリティ

「すべては土地から産まれる」という言葉がある。イタリアの地域の文化資産に意味を与えることで、他の地域で模倣しようのない価値が生まれる。

 

課題の解決と意味の形成

これまでは、経営哲学は課題の解決に焦点が当たっていた。解決すべき、目に見える課題があり、いかにそれに取り組むか。それは進むべき方向性が決まっているからこそ課題になり得るのであり、現代はその方向性が多様化しているので、そこに限界を感じる空気が出てくる。課題解決(HOW)の対極にあるのが意味形成(WHAT)であり、人生に意味を見出す(sense making)こと。

 

新しいラグジュアリーブランドのあり方を考える

最後に、新しいラグジュアリーブランドの在り方を考えるためのヒントとして、7つの取組みを共有していただいた。

①美しい、美味しい、好きを自覚していく(審美性を大切にする)

②他人に頼らず、まずは1人で方向感覚を磨いていく

③方向の意味があることを感じ、メタファーを設定する

④大事な人へギフトを贈る気持ちが、愛されるものを作る

⑤自分が選んだローカルで、手を動かしながら考える

⑥ファインアートや確立された文化体系との距離感を測りながら、ブランド構築を設計していく

⑦サスティナブルな中規模量産のレベルを構想していく

 

意味のイノベーション=「見立て」

当社(株式会社みたて)の名前は、茶道における「見立て」に由来します。かつて海外から輸入される茶道具に人気が集中し、価格が高騰していた時代に、竹の筒や魚籠を茶室に持込み、茶道具として使う(=見立て)ことで価値観の大転換を図った千利休。現代において、我々が当たり前だと思っている、伝統的な、地域の文化を、グローバルな文脈の中で新鮮な価値として提案する。それを通して、我々自身がその価値を再認識していく。それが日本各地で起こったとき、面白い国ができるのではないか。そのようなことを目指しています。「意味のイノベーション」を得意とするイタリア中小企業に、学ぶべき多くの事があるように感じて、とても希望を持てた時間となりました。